雇用保険の加入基準は、週の労働時間が20時間以上で31日以上の雇用の見込みとされています。
しかし、上記に基準を満たしていても、雇用保険に加入させる必要が無い場合があります。
その代表的な例が、2か所勤務です。
2か所の事業所に勤務していて、両方の事業所で雇用保険の加入基準を満たしている場合には、原則、賃金額が多い事業所で雇用保険に加入することとなります。
これはよくある話ですが、先日、雇用保険の加入に関して、これまで思いもよらない事例を経験しました。
本ブログでは、雇用保険に加入に関して、法律がそうていしていないような事例についてお話ししたいと思います。
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別の会社の代表取締役を労働者として雇用したら・・・
先日、1人で経営をされている社長様から連絡がありました。
「今度、1年間だけなんですが、社員を雇用することになるので、どのような手続きをすれば良いですか?」
詳しいお話を聞いてみると、その雇用予定の社員の方は、別の会社で社長をされているのですが、業務の都合でどうしても、雇用契約を結ばなければならないそうです。
たとえ、会社の代表者であっても、全く別の会社で雇用されれば、労働者となるので、労災保険に加入する必要があることは、疑う余地は、無かったのですが、雇用保険について「??」と思ってしまいました。
現在の通常の労働者の雇用保険の加入条件は、1週間の労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みです。
ただし、代表取締役は、雇用保険の被保険者にはなりません。
しかし、今回は、自分が代表取締役をしている会社とは全く関係が無い会社に雇用されるわけです。
雇用保険に規定に、代表取締役等、雇用保険の被保険者にならない場合がいくつか定められていますが、「雇用される労働者が別の会社の代表取締役の場合」についての規定は、特別ありません。
であるならば、「たとえ、別の会社の代表取締役であっても、雇用保険への加入条件を満たせば、雇用保険に加入しなければならない」と最初は思いました。
しかし、ふと疑問が湧いてきました。
この従業員が、1年後に離職した場合に、仮に失業給付の受給条件を満たしていても、
別の会社の代表取締役である限り、「失業状態」とはならないので、失業給付を受給することができなくなります。
もちろん、離職時に必ず代表取締役である確証はないのですが、ただ、雇用保険は、失業給付の受給を主な目的としているため、加入時に失業給付の受給ができない労働者を加入させるのも、何か腑に落ちない、と思いました。
ここでハローワークに確認してみたのですが、結果的には、今回の場合は、雇用保険に加入する必要がない、との回答になったのですが、その根拠は意外なもので、「失業給付が受給できないため」という事とは全く関係が無いものでした。
ただ、根拠と言っても、法律に明確に定めがあるわけでは、なかったのです。
つまり、「法律が想定していない」ということのようなんです。
法律に明確な規定が無いとなると、様々な疑問が湧いてきます。
私は、こういう時には、「では、この場合は?」「それはおかしいではないですか?」と結構、突っ込んで聞いてしまう方なんです。
ですから、電話を切った後に、「あぁ~また役所の人に嫌われてしまった・・・」と嘆いてしまいました・・・(笑)
法律を準用すると疑問が残る場合も・・・
では、何を根拠に雇用保険に加入する必要がないかです。
私は、最初に疑問に思ったのが、「別の会社で代表取締役をやっていれば離職した時に、失業給付が受給できないから」と思いましたが、必ずしも離職時に代表取締役である確証はありません。
実は、ハローワークの担当者の方の回答は、「2ヶ所勤務」の法律を根拠にされました。
これは、労働者が、2ヶ所で勤務していて、両方の会社で雇用保険の加入条件を満たしている場合には、収入が多い方で雇用保険に加入するというものです。
つまり、今回の事例で言えば、労働者として支給される賃金より、代表取締役としての報酬の方が多ければ、雇用保険に加入する必要はないという見解です。
でも・・・?
「2ヶ所勤務」の法律は、あくまで2ヶ所で被保険者となる場合の規定で、代表取締役は、その会社では被保険者にはなり得ないはずです。
納得できないと、どこまでも突っ込んで聞いてしまう性格なので、「でも、2ヶ所勤務の規定は、あくまで2ヶ所で被保険者の場合ですよね。代表取締役は、被保険者ではないですよね?」と聞くと、ハローワークの担当者は、「でも、2ヶ所で収入がある場合には、収入が多い方の状況で考えます。」との回答。
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雇用契約と委任契約は本来違うのですが・・・
さらに疑問が湧いて・・・
「では、年金受給者や家賃収入者が、会社に勤めた場合に、給料より年金額や家賃収入の方が多ければ、たとえ、雇用保険の加入条件を満たしていても、雇用保険に加入しなくても良いのですか?」
とまた別の質問をすると、ハローワークの担当者は、
「年金受給者や家賃収入者は、勤務しているわけではないので、今回の場合とは違います」
「でも、取締役の報酬は労働の対価ではなく、業務委任の報酬ですよね。厳密には勤務とは違いますよね。」
とさらにハローワークの担当者に突っ込むと、
「・・・・・でも、業務を行っているのには違いないですよね。」
「なるほど、勤務と言うのは、厳密な労働ということではなく、広い意味での業務という意味ですか?」
「そうですね。そう考えるとすっきりする感じですよね」
とこんな感じのやり取りをして終わりました。
決してスッキリしたわけではないのですが(笑)、結局「2ヶ所勤務の規定」を準用すると、どうしても疑問が湧きます。
逆に考えると疑問が出て当然なのかもしれません。
あくまで「準用」は、「準用」ですから。
つまり、法律では、「代表取締役が、別の会社で労働者となる」ということは想定していなかったのでしょうね。
ところで、個人的な考えですが、2ヶ所勤務の規定は、あくまで「2ヶ所で雇用される」場合で、あくまで「雇用」です。
ご存知のように、取締役は、雇用ではなく委任です。
法律的に全く違う、「雇用」の規定を「委任」に準用することがどうなのか?
と自分的には、「?」が消えません。
私は、逆に規定が無いのなら、単純に雇用保険の加入条件のみを根拠して、別法人の代表取締役でも条件を満たしているなら被保険者となるという方が、スッキリするような気がします。
ただ、法律に明確な規定が無い場合には、こんなもんなのかな、と思ってしまいました(笑)
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社会保険労務士 松本 容昌
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