Q14. 取締役でも雇用保険に加入できるのでしょうか・・・?


 
【質問】
 
「先日、同業社の取締役の方が、退職した後、雇用保険の失業等給付を貰うことができた、と話していました。取締役等の役員は、雇用保険には加入できないと聞いていたのですが、どういうことでしょう?」
 
【回答】
 
「はい、取締役であっても労働者性が強い場合には、雇用保険に加入できる場合があります。ただし、兼務役員の証明をもらう必要があります。」
 
【解説】
 

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雇用保険は、退職などで失業の状態となった労働者に、一定期間、失業等給付を支給して、労働者の生活の安定を確保するすることを主な目的とした制度です。

従って、雇用保険は、あくまで労働者を対象としている制度です。

ですから、個人事業主や法人の代表取締役はもちろん、取締役等の役員も原則、雇用保険に加入にすることはできません。
 
 
ところで、法人の取締役の場合、特に中小企業のにおいては、取締役であっても、労働者性が強いことが多々あります。

ですから、雇用保険では、取締役であっても労働者としての身分の方が強い場合には、雇用保険への加入を認めています。
 
 
ただし、単純に労働者性が強いだけでは、雇用保険に加入することは出来ず、取締役の雇用保険への加入が認められる場合には、兼務役員の証明を取る必要があります。

この兼務役員の証明を得て、取締役は、初めて雇用保険へ加入することができます。
 
 
逆に言えば、もし、この兼務役員の証明が無いのにも関わらず、取締役が雇用保険に加入している場合には、取締役が、退職した時であっても失業等給付を受給できない、という理屈となります。

ですから、もし、取締役の方で、雇用保険に入っている方がいて、兼務役員の証明が無い場合には、兼務役員の証明を取るか、雇用保険の資格を喪失させるかの手続きを取る必要があります。
 
 
ところで、兼務役員の証明を取るには、労働者性が強い必要がありますが、取締役の労働者性については、労働時間、報酬、従事している業務内容等で判断されます。

従って、兼務役員の証明を申請する場合には、出勤簿やタイムカード、賃金台帳、取締役会議事録、決算書類、就業規則、組織図等を添付します。
 


では、取締役の労働者性についていくつかポイントをお話したいと思います。

まず、労働者であるためには、会社に労働時間の管理をされている理屈となります。

従って、出勤簿又はタイムカード等の労働時間の状況がわかる種類が不可欠となります。
 
 
また、労働者性の判断に重要な要素となるのが、報酬です。
 

労働者は、通常、給料で報酬が支払われますが、取締役の場合は、役員報酬で支払われます。

ですから、取締役の報酬が、全額、役員報酬の名目で支給されていたら、実際の仕事の内容が労働者と同じであっても、「労働者では無い」とみなされてしまう可能性が強くなります。

従って、労働者性が強い、と認められるには、少なくとも報酬の2分の1以上が、給料で支給されている必要があります。
 
 
そして、報酬に関しては、実は、もう1つ重要なポイントがあります。

それは、決算書です。
つまり、決算書類上も支払われている報酬が、給料で処理されている必要があります。逆に言えば、いくら毎月の報酬が給料の名目で支給されていても、決算書類上、役員報酬で処理されていたら、労働者性が否定される可能性が強くなってしまいます。

実は、このようなケースが非常に多いのです。

と言うのは、決算業務を行うのは税理士等であるため、税理士や経営者の方自身が、この兼務役員という概念がなければ、通常は、役員報酬で処理されてしまうからです。
 
 
このように、取締役の労働者性の判断は、結果的には、書類上で判断されてしまうことなってしまいます。

もちろん、考え方は、労働者性が強いから、必然的に、それを裏付ける書類があるはず、という考え方となるのですが・・・。

以上のように、法人の取締役であっても、労働者性が強いと認められ、兼務役員の証明を取ることができれば、雇用保険に加入することができ、退職後に失業等給付を受給することも可能となります。
 
 
ところで、もちろん、全ての取締役を雇用保険に加入させる必要はなく、実際に、労働者ではなく、あくまで取締役として業務に従事するのであれば、雇用保険から脱退することとなります。

なお、兼務役員の証明に関しては、各ハローワークに添付書類や取扱いが異なる場合がありますので、詳細につきましては、事務所を管轄しているハローワークへお問い合わせ下さい。

なお、個人事業主や法人の代表取締役は、「労働者性が強い」ということはあり得ないので、どのような場合であっても、雇用保険に加入することは出来ませんのでご注意下さい。
 
 
最後に少し余談ですが、取締役等の役員と労災保険との関係についてお話したいと思います。

労災保険(正式名称は、労働者災害補償保険)は、雇用保険と同じ労働者を対象とした保険です。

そのため、取締役等の役員や個人事業主は、労災保険の適用を受けることはできません。

しかし、中小企業の場合には、取締役等であっても労働者と同じ業務に従事するケースは非常に多いと言えます。

ですから、中小企業の取締役等は、特別加入制度を利用すれば、労災保険の一部適用を受けることができます。
 
 
ところで、労災保険の特別加入は、雇用保険と違い、代表取締役や個人事業主であっても加入することができます。(むしろ代表取締役や個人事業主を主眼として作られた制度とも言えます。)

なお、労災保険の特別加入については、以下の記事をご参照いただければと思います。

>>「役員も労災保険が使える特別加入とは・・・?」
 
建設業や製造業等一定以上のリスクが考えられる業種の場合には、特別加入を検討されると良いかと思います。

是非、ご参考になさって下さい。
 
 
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社会保険労務士 松本 容昌
 


 

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