世間では、「社会保険料節約のマル秘裏技テクニック」といったセミナーが開催されたり、教材が販売されていたります。
現実問題として、企業にとって社会保険料の負担は、決して軽いものでありません。
そのため、多くの経営者の方が、社会保険料を節約したい、と思うのも無理からぬことと思います。
しかし、その一方で、私は以前からそれら裏技と呼ばれるものについて疑問を持っていました。
本ブログでは、社会保険料の節約の裏技やノウハウについての疑問についてお話ししてみたいと思います。
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「マル秘テクニック」は、本当にマル秘?
社会保険料を負担に感じている経営者の方は多いと思います。
従業員を20万円で雇用した場合、社会保険料の負担は、約3万円弱となります。
従業員を5人雇用すれば、毎月15万円の保険料負担となります。
中小企業、特に零細企業にとっては、かなりの負担となります。
ですから、なんとか社会保険料を節約したい!と考える経営者の方のお気持ちもわかります。
ところで、巷では、「社会保険料節約のマル秘テクニック」といった社会保険料を節約するための裏技的なものが販売されています。
「マル秘テクニック」と言われれば、誰でも「そんな良い方法があるのか?」と思ってしまいますよね。
私自身で教材を購入したことがないので、100%確信を持っているわけではないのですが、以前から、この手の教材に疑問を持っていました。
と言うのも、確かに社会保険料を節約する方法はいくつかあります。
しかし、私の経験からすると、社会保険料を節約する方法は、
① 社会保険料は確かに節約できるが、裏技という程のテクニックでもなんでもないもの
② 理論上は節約できるか、現実的に実行できるか疑問が残るもの
に分けられると思っていいます。
ただ、先程も書きましたように、私自身その手のノウハウを購入したことがないので、確かめようも無いし、自分の考えに自信も持っていて、私のお客様には決してそんなことを薦めたりしないため、自分とは関係の無い世界の話しと思っていたのですが、先日、社会保険労務士の会員誌に、社会保険料節約のノウハウの教材でトラブルが多発している、という記事が載っていたんです。
私は、心の中で「やっぱり」と思ったのですが、実際、有益なノウハウとはとても言えないようなものに、お金を支払っている経営者の方が、いるわけですから、私のメルマガ・ブログの読者の方には、正しい知識を持っていただきたいと思い、今回、このような題材でメルマガを書いた次第です。
もちろん、教材等を購入するしないは、個人のお考えですし、それに対してどう思われるかも個人の自由ですので、これからお話しすることは、あくまで今後の参考と思っていただければと思います。
「節約」ありきで考えてしまうと本末転倒となってしまう場合も・・・
まず、最初に確認ですが、社会保険(健康保険と厚生年金保険の総称です。)の加入基準は、従業員数100人未満(令和6年10月以降は50人未満)の企業では、労働日数と労働時間で判断され、1週間の労働時間が30時間を加入の目安とされています。
ですから、社会保険料節約のテクニックとして、「社会保険に加入する必要が無い、パートタイマーやアルバイトを積極的に活用しましょう。」といった事が、言われます。
確かにその通りなんですが、でも、「これってテクニックなの?」って思ってしまいませんか?
セミナー等でかしこまって言われると、「なるほど」って思ってしまいますが、社会保険に加入する必要の無い人を、多く雇えば社会保険料が節約できるなんて経営者だったら誰でもわかりますよね。
そして、私自身は、この考え方自体に強い疑問を持っています。
と言うのは、確かに社会保険に加入させる必要がないパートタイマーやアルバイトを多く雇用すれば、社会保険料が節約されるのは事実です。
しかし、それだけの人数を確保する必要があります。
現在のような人手不足の状況では、社会保険に加入する必要の無い従業員で経営を行うとしたら、人材確保にもの凄いエネルギーを使う必要あります。
仮にそれだけの人材を確保したとしても、アルバイト、特に学生アルバイトの場合には、突然、欠勤する場合もあります。
そのような場合には、他の社員等にしわ寄せが行ってしまい、割増賃金を支払う結果となってしまうこともあります。
つまり、社会保険料節約ありきでパートタイマーやアルバイトを活用してしまうと、かえって業務に支障が出てしまう、それって、本末転倒でないでしょうか?
ですから、私は、パートタイマーやアルバイトを上手に活用すれば、社会保険料の削減に繋がる場合もありますが、それ自体をノウハウやテクニック的なものと考えるのには大きな疑問を持ちます。
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実現可能で初めてノウハウと言えるのでは?
今回、社会保険料節約に関する、いわゆる「裏技」と称される、ノウハウやテクニックについて、疑問を投げかけるブログを書いた理由の1つが、ある本を読んだことがあります。
その本は、本屋さんで何気なく私の目に入ってきたのですが、
まさに「社会保険料を節約する方法」。(立ち読みで、購入したわけではないので、正式な名前は忘れましたが、このような名前でした。)
いかにも興味をそそられますね。
私も、「何が書いてあるのだろう?」と思わず手に取り、少しワクワクしてページをめくっていきました。
ページをめくっていくにつれ、私の頭の中は、「????」でいっぱいになってしまいました。
「社会保険料を節約する方法」と書いてありながら、「節約する方法」についての記述が一向に出てこずに、資格取得の基準や扶養の認定基準、保険料の徴収方法等、社会保険の概要について延々と書かれているのです。
「社会保険の概要について」という題名なら、良いのですが、「節約の方法」と書いてあるわけですから、思わず「これって少し酷くない?」って思ってしまいました・・・。
この本を書いた方が、どういう意図で書いたかわかりませんし、書いてある内容自体は、全くの事実ですので、本を購入した方が、どう思うかもそれぞれでしょうから、別に構わないのですが、私が、最も疑問に思ったのが、その本に唯一書かれていた、「社会保険料の節約の方法」です。
その本に書かれていた、「社会保険料の節約の方法」とは、こんな内容でした。
ご存知のように、退職金については、社会保険料は発生しません。
ですから、現在、仮に20万円の給料を支給しているのなら、そのうち5万円を退職金の積立にまわし、将来、退職金として支給すれば、従業員にとっても、トータルで支給される額は変わらないうえで、5万円についての社会保険料を減らすことができる、というものです。
確かに理論上はその通りです。
しかし、本来、ノウハウやテクニックというものは、実践できて初めて、その価値があるんではないでしょうか?
例えば、以前、アトピー改善の本に載っていた改善方法に、毎日お風呂に15分間入るというものがありました。
確かに、新陳代謝が良くなれば、アトピーは改善する可能性は高いのではないでしょうか?
ただ、私は専門家では無いので、この方法の効果についてはわかりませんが、仮に、15分間毎日お風呂に入る続けることが、アトピーにもの凄く効果があるとしても、2歳のお子さんにそれが出来るでしょう?
専門機関にお願いするならともかく、普通の家庭で、2歳のお子さんを毎日15分間お風呂に入れ続けるには、並大抵の努力では無理ですよね。
となれば、アトピーにかかっている2歳のお子さんをお持ちのご両親にとって、この改善方法は価値を持つのでしょうか?
ただ、大人であれば15分間お風呂に入ることは可能でしょうから、「毎日、15分間お風呂に入る続ける」という方法自体の価値は、認めることは可能かと思います。
他に支障が出てしまえば本末転倒です
しかし、「退職金を利用して社会保険料を節約する」というノウハウ自体に価値があるのでしょうか?
もし、この方法を読んで、実行する経営者の方は、どれだけいるでしょうか?
はっきり言って、私は、皆無だと思います。
給料の減額分を将来退職金としてもらう、ということは、20年、30年先のことです。
20年、30年先どのような状況になっているのか、非常に不透明ですよね。
社会保険制度もどのようなものとなっているかわかりません。
そのような不透明な将来であるにもかかわらず、20年先、30年先のことを現時点で決めてしまうのは、はっきりと言って無理があります。
<また、「20万円のお給料のうち5万円を退職金の積立に回して」と言いますが、基本給を下げるという事は、経営者が一方的にできるものではありません。
確かにその分を退職金の積立に回す、という代替案があるにせよ、少なくとも従業員の同意が必要です。
従業員の側から考えて、何十年先にもらう退職金のために現在の給料が減るのに納得するでしょうか?
また、通常、退職金は、勤務年数が3年以上経過後に支給されるのが一般的です。(法律的な定めはありませんが)
となると、「退職金を利用して社会保険料を節約する」というノウハウは、3年未満に退職してしまう従業員には恩恵がないこととなってしまいます。
また、給料が減れば確かに保険料は減ります。
しかし、それは、将来の年金額が減ることでもあります。
年金なんて今後、どのなるかわからないから、そんなこと考慮する必要ない、と考えるのは少々乱暴でしょう。(特に社会保険労務士という立場であればなおさらです。)
実践できなければ、ただの「絵に描いた餅」です
つまり、こんな疑問、すぐに湧いてくるのに、その本には、このような事項についての記載はありませんでした。
ただ、「給料額を減らし、その分を退職金で支給すれば、社会保険料が節約できる。」
その点がいかにも素晴らしいノウハウのように書かれていました。
私は、このような事を1つの手段として伝えるのは構わないと思います。
しかし、いかにも「裏技的テクニック」な感じで言うのは、著しく疑問に感じます。
何故なら、私自身は、社会保険料に節約について、裏技的なノウハウなものは無いと考えるからです。
確かに、結果的に社会保険料が節約できる場合ある方法もあります。
しかし、それは、あくまで結果論によるところが多いのです。
ノウハウやテクニックは、意識的に使うことが出来て初めて価値を持つものではないでしょうか?
理屈上は、社会保険料を節約できる、といっても、現実的に社会保険料を節約できなければ、「ただの絵にかいた餅」です。
社会保険料節約のノウハウと言われるものは、実は、「ただの絵に描いた餅」の場合が圧倒的に多いと言えます。
では、社会保険料節約のノウハウについてもう1つ見ていきたいと思います。
月額変更を利用することは可能ですが・・・
社会保険料節約のテクニックとして、必ずと言っていい程登場するのが月額変更です。
ご存知のように、社会保険料は、4月、5月、6月に支払った給料の総額を基に標準報酬月額というものが決められ、1年間その額に応じて社会保険料を負担します。
ですから、結果として、4月、5月、6月に残業等が多い会社の場合、社会保険料の負担が大きくなります。
ところで、もし仮に4月、5月、6月の残業代を7月以降に支払ったとしたら社会保険料の削減となります。
しかし、これは、労働基準法の「賃金の全額払い」の法律に違反することとなります。
違反行為は、ノウハウでも何でもありません。
もし、このような行為を薦められても絶対に行わないようにして下さい。
さて、先程、書きましたように、その年の社会保険料は、4月、5月、6月に支給した給料を基に決められます。
1年間を通じて、毎月の給料の額が変わらないのであれば、問題ないのですが、業種によっては、春先から初夏にかけてが繁忙期で、4月、5月、6月だけ給料の額が高い場合もあります。
そのような会社にとっては、4月、5月、6月の給料で社会保険料を決める制度は、不公平と感じてしまうでしょう。
ところで、社会保険料は、原則1年間変わらないのですが、>固定的賃金や賃金体系に変動があった場合には、年度の途中でも、社会保険料決定の基となる標準報酬月額が変更される場合があります。
これを月額変更と言います。
実は、この制度を利用することによって、社会保険料を節約できる場合があります。
月額変更は、固定的賃金に変更があった場合以降、3ヶ月間の給料の総額の平均が、標準報酬月額表において、現在の標準報酬月額と2等級以上の差が出た場合に行われます。
例えば、ある会社で、4月、5月、6月の給料によって決定された標準報酬月額が、30万円だったとします。
もし、この会社が、4月、5月、6月のみが繁忙期の会社とすると、7月以降の給料は、当然、減少します。
しかし、先程、書きました月額変更は、あくまで年度の途中で固定的賃金や賃金形態に変更があった場合に行われるのであって、単に非固定的賃金である残業代が減っても、月額変更は行われません。
しかし、もし、このような会社で7月以降の基本給を極端な話し、「1円」下げたらどうなるでしょう?
たとえ、1円であっても、固定的賃金が変更したことは事実ですので、7月以降3ヶ月間の給料の総額の平均が、現在の標準報酬月額と2等級の以上の差が出れば、月額変更が行われることとなります。
例えば、4月、5月、6月の給料が基本給20万円で残業代が10万円として、7月以降残業代が無くなって、単に基本給が20万円だけ支払われるなら月額変更の対象とはなりませんが、基本給を1円下げて、19万9999円とすれば、固定的賃金に変更があったので、7月以降の3ヶ月間の給料の平均は19万9999円となり、現在の標準報酬月額である30万円と2等級以上の差が出るので、月額変更の対象となります。
このような行為は、道義的に多いに問題があります。
しかし、法律違反では、無いことも事実です。
ところで、今回、私が言いたかったことは、このような行為について、「道義的にどうか」ということでは無いのです。
私個人としては、このような考えに道義的に多いに疑問を持っています。
しかし、法律的 に違反しているわけではないので、それをどう判断するかは、経営者各自の判断で良いと思います。
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本来の業務に支障をきたしてまで保険料を節約すべきか・・・?
私が、言いたかったことは、このような行為が、社会保険料節約のノウハウとして扱うことが、ノウハウに値するかどうか、ということです。
ノウハウというものは、それを実行すれば、効果がある程度期待できるものです。
しかし、個人の事情ではなく、外的要因によって効果が全く期待出来ない場合には、それはノウハウに値するでしょうか?
先程の月額変更ですが、4月、5月、6月のみに残業が多い会社で、7月以降の基本給をわずかでも変更すれば、社会保険料を減らすことができます。
しかし、それはあくまで7月以降残業が無いという前提です。
もし、想定外の受注や何らかのトラブルが起こってしまい、7月以降も残業時間が変わらなかったらどうなるでしょう?
7月以降の基本給に変更があっても、3ヶ月間の給料の総額の平均が、現在の標準報酬月額と2等級以上の差が出なければ、当然、月額変更は行われません。
もし、月額変更を使っての社会保険料節約することをノウハウとして購入した方が、「もし、想定外の残業をせざる得なくなった場合には、どうなるのでしょう?」と疑問を持ったら、販売した方は、どのように答えるでしょう?
「基本給を変更した以降、残業させたらこのノウハウは使えません」としか言えないのではないでしょうか?
「業務に支障をきたさなければ、社会保険料を節約できない。」
月額変更を使っての社会保険保険料の節約には、このような問題点があります。
このような不確定とも言える、問題点を含んでいるものをノウハウと称することに私は大いに疑問を感じます。
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まとめ
今回、初回保険料節約に関するノウハウや裏技的なテクニックについての疑問について書いてきましたが、これらをどう考えるかは、あくまで個人の判断で良いと思います。
しかし、今回の冒頭で書きましたが、社会保険料の節約については、トラブルが発生しているようです。
社会保険料節約については、いくつかの方法があることは事実です。
そのような方法を知っていれば、確かに保険料が減る場合もあるでしょう。
しかし、それはあくまで結果的であって、問題はそのような方法が、お金を払ってまで購入するノウハウに値するどうかなんです。
今回は、その点を縁あって私のブログをお読みの皆様にお伝えしたいと思いました。
ご参考いただければ幸いです。
社会保険労務士 松本 容昌
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