現在、長時間労働が大きな社会問題となっております。
長時間労働を抑制するために、労働基準法が改正され、月の労働時間の上限時間が、法律に規定されることとなります。
長時間労働そのものを抑制すること自体は、もちろん重要なことです。
しかし、その一方で、長時間労働を抑制するには、有給休暇の取得率を上げることも重要となってきます。
有給休暇の取得率が上がれば、当然、労働時間も削減されます。
しかし、ご存知のように、我が国の有給休暇の取得率は、決して高いとは言えません。
様々な理由が考えられますが、経営者の方が、有給休暇の法律についての認識不足も理由の1つと言えます。
ですから、経営者の方に少しでも有給休暇について正しき認識していただくよう、有給休暇の計算方法についてわかりやすく解説したいと思います。
また、有給休暇の法律等について少し詳しくお話ししていきたいと思います。
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そもそも有給休暇とは?
有給休暇とは、一定期間の休暇を与え、しかも休暇中の賃金を平常通り支払うことにより、労働者に安心して休養を取らせ、心身の疲労回復を図り、リフレッシュさせることを目的として労働基準法に定められた制度で、労働者の権利となります。
つまり、有給休暇は、それぞれの会社が個別に制度を設ける、というものではなく、付与される日数や有給休暇中の給料等については、労働基準法で明確に規定されています。
従って、法律の定めとは違った取扱いをしてしまうと、法律違反となってしまいますので、まずこの点にご注意下さい。
有給休暇は、入社6ヶ月後に付与されます
まず、有給休暇の付与日数についてお話ししたいと思います。
有給休暇は、労働者に対して入社6ヶ月を経過した時点で10日間付与されます。(なお、有給休暇の付与日数については、労働時間及び勤務日数が一定以下のパートタイマー等については、比例付与といって、付与日数が、通常の日数より少なくなります。)
そして、その後は、1年経過毎に付与され、付与日数も勤務年数と共に増加していきます。
有給休暇の付与日数についてはこちらをご参照下さい。>>有給休暇付与日数
ところで、有給休暇は、入社後6ヶ月間勤務すれば無条件で付与されるわけではなく、付与されるには、全労働日の8割以上出勤している必要があります。
全労働日とは、労働の義務が課せられた日をいい、具体的には6ヶ月間の暦日から所定休日を除いた日数となります。
例えば、入社後、6ヶ月間の全労働日を120日とすると、そのうちの8割以上、つまり、96日以上出勤していれば、有給休暇は付与されますが、出勤日数が95日以下の場合には、有給休暇は付与されません。
そして、この考え方は、この後も適用されます。
入社後6ヶ月後の次に有給休暇が付与されるのは、1年後です。(つまり、入社1年6ヶ月後となります。)
この時点で、有給休暇が付与されるには、過去1年間の全労働日の8割以上出勤していることが必要となります。
以降、同じ考え方を適用します。
なお、有給休暇が付与されるかどうかの判断は、それぞれの基準日(入社後6ヶ月、入社後1年6ヶ月等、有給休暇が付与される日)ごとに判断されますので、たとえ、何処かの基準日で全労働日の出勤率が、8割未満で有給休暇が付与されない場合でも、次回の基準日において、全労働日の8割以上に出勤していれば、勤務年数に応じた有給休暇が付与されます。
例えば、入社後、2年6ヶ月を経過した時点で、過去1年間の全労働日の出勤率が8割未満で、有給休暇が付与されなくても、その後の1年間の全労働日の出勤率が8割以上であれば、入社後3年6ヶ月経過した時点で、14日の有給休暇が付与されます。
つまり、有給休暇は、一度、付与されなかったからと言って、その後の付与の全てが、失われてしまうわけではありません。
出勤率について
上記にご説明したように、有給休暇を計算するにあたっては、出勤率が重要となってきます。
ところで、出勤率を計算するにあたり、以下の期間又は日は、「出勤したもの」とみなされます。
①業務上負傷等し、療養のために休業した期間
②育児・介護休業法による育児休業又は介護休業をした期間
③労働基準法による産前産後休暇の期間
④有給休暇を取得した日
例えば、入社後6ヶ月の時点で、業務上負傷し療養のために休業し、その後1年間、1日も出勤しなかった場合でも、労働日に出勤したとみなされるため、出勤率は100%となり、11日の有給休暇が付与されます。
しかし、療養のための休業が、出勤したとみなされるのは、あくまで業務上の負傷等の場合に限られるため、私傷病による休業はもちろん、通勤災害により負傷等し休業した場合も、「出勤したもの」とはみなされません。
労災保険では、通勤災害も保険給付の対象となりますが、有給休暇においては、取扱いが異なります。
ただし、私傷病による休業又は通勤災害により負傷等し休業する日に有給休暇を取得した場合には、出勤した日とみなされます。
また、③の労働基準法による産前産後休暇の期間についてですが、労働基準法による産前産後の休暇期間は、産前42日間(多胎妊娠の98日間)、産後56日間とされています。
ですから、この期間に中に休業した場合には、「出勤したもの」とみなされます。
しかし、場合によっては、産前42日(多胎妊娠の場合は、98日)前から休業する場合もあります。
このような場合には、「出勤したもの」とはみなされないこととなります。
また、早退、遅刻した場合は、1労働日の一部しか労働していませんが、有給休暇の出勤率を計算する場合には、「出勤したもの」とみなして計算します。
有給休暇の繰越しについて
有給休暇の計算において、もう1つ重要なポイントは、繰越しです。
有給休暇は、翌年度に繰越すことができます。
例えば、平成28年4月1日に入社し6ヶ月経過後の平成28年10月1日に、10日間の有給休暇が付与されるは、これまでご説明した通りです。
そして、さらに1年経過した、平成29年10月1日に新たに11日間の有給休暇が付与されます。
この時点で平成28年10月1日に付与された有給休暇が残っていた場合には、翌年度、つまり、平成29年10月1日から1年間に繰越すことができます。
ですから、仮に、平成28年10月1日に付与された有給休暇を全く消化せずに、平成29年10月1日を迎えると、この時点で、有給休暇の付与日数は、21日間(10日+11日)となり、平成29年10月1日から1年間の間に21日間の有給休暇を取得できる権利があることとなります。
そして、その後も有給休暇を全く取得しなかったとしても、平成30年10月1日の時点で、最初に付与された10日間の有給休暇は、消滅します。
しかし、平成29年10月1日付与された11日間の有給休暇を繰越すことができるので、新たに付与される12日間との合計で、有給休暇の付与日数は、23日間となります。
そして、有給休暇の年間の付与日数は、最大で20日間ですので、1年間に取得できる有給休暇の最大の日数は、40日間となります。
ところで、有給休暇の繰越しについては、法律の規定によるものですので、たとえ、就業規則等に「有給休暇の繰越しは認めない」と規定しても、無効となりますのでご注意い下さい。
次に有給休暇の付与日数の管理についてお話ししたいと思います。
これまでご説明したように、有給休暇が最初に発生するのが、入社後6ヶ月を経過した時点です。
つまり、有給休暇が付与される日は、入社日によって決まります。
となると、全労働者が同じ入社日であれば、付与される日も同じとなります。
しかし、現実には、そのようなことはあり得ません。
つまり、有給休暇が付与される日は、労働者ごとに違ってきます。
ですから、有給休暇の付与日数を管理するには、その点を認識し、管理していく必要があります。
ちなみに、労働者ごとに有給休暇の付与日数の管理が大変ということで、任意の日を選んで全労働者に有給休暇を付与するケースもあります。
このような場合、その規定が、労働者にとって不利にならなければ、問題ありません。
しかし、例えば、付与日を4月1日のみとした場合、4月2日から9月30日まで入社した労働者は、法律的に4月1日以前に有給休暇の権利が発生するので、このような規定は、無効となってしまいますのでご注意下さい。
今回ご説明しましたように、有給休暇を計算するには、勤務年数以外も出勤率や繰越しにも注意を払う必要がありますので、是非、ご参考になさって下さい。
アルバイトにも有給休暇は発生します
「アルバイトには有給休暇は無い」
以前に比べてかなり少なくなってきましたが、依然として、このような事を言われる経営者の方がいます。
しかし、冒頭にもお話しましたが、有給休暇は、労働者の権利であり、アルバイトであっても労働基準法は、れっきとした労働者ですので、当然に有給休暇が発生します。
有給休暇は、労働者にとって重要な労働条件の1つでもありますので、誤って運用すると大きなトラブルに発生してしまう可能性がありますので、ご注意下さい。
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社会保険労務士 松本 容昌
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