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【質問】
「弊社では、従業員数も増えてきて、売上もある程度、安定してきたので、福利厚生の一環として退職金制度の導入を検討しています。退職金制度を導入する場合、どのような点を注意すれば良いでしょうか?」
【回答】
「退職金制度は、法的に事業主に課せられた義務ではありません。しかし、一度、制度化する、通常の賃金と同様にみなされ、制度導入後は、会社が、一方的に退職金制度の廃止、減額ができなくなります。」
【解説】
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退職金の支払は、賞与と同じように事業主に課せられた義務ではありません。
しかし、一度制度を定めてしまうと通常の賃金同様、支払の義務が生じてきます。
ただ、賞与につきましては、「会社の業績に応じて支払わない場合がある」等の記載をする事で、文字通り業績によって支払を要しない事ができます。
しかし、退職金については、従業員の退職の時期というものは当然不定期に訪れるため、その時々の事情で「支払う」「支払わない」となると明らかに不公平となってしまうため、退職金は、「支払う」のが前提で制度化されます。(懲戒解雇時に退職金を支払わない旨の規程を入れることは可能です)
つまり、退職金制度というものは、一度制度を導入してしまうと、使用者は、支払を基本的には免れないこととなります。
ですから、退職金の制度導入については慎重を期す必要があります。
確かに退職金制度は、従業員にとっては老後の生活の糧の手段の1つとして重要な問題といえます。
長い年月の勤務の終わり退職時に退職金が支給されるかされないかは、従業員の会社に対する貢献心や愛社精神といったものに大きく影響を与えます。
従って、退職金制度を導入する事自体は、経営的に考えてもプラスとなることです。
しかし、安易に導入して、実際に退職金を支払う必要が出てきた時に、退職金を支払う源資が不足していて、無理な借入等を行い、結果的に業務状況が悪化してしまったら、本末転倒となってしまいます。
ところで、最近はあまり話題に上ることが少なくなったのですが、以前税制適格年金の問題が取り上げられた事があります。
退職金の積立金の1つで、掛金を損金に算入できるため、発売当時景気が良かったこともあり、多くの企業で税制適格年金に加入しました。
しかし、税制適格年金に加入するには1つ要件がありました。それは、退職金規程の作成でした。退職金規程を作成するという事は、従業員に退職金を支払う約束をするということです。
しかも、作成された退職金規程は労働基準監督署に届出る必要があるため、退職金規程の存在は、公のものとなります。
もちろん、この事自体は何の問題もないのですが、ただ、1つ結果的に問題となってしまったのは、当時景気が良かったこともあり、退職金の支給額を積立利率5.5%で計算されていたのです。
しかし、その後景気の悪化と共に利率が低下してしまい、金利は限りなく0に近づいてしまったのは周知の通りです。
つまり、利率5.5%で計算されて何十年か後には積み立てられるはずの積立金は、大きく不足してしまうこととなったのです。
これが大問題となったしまったのです。
何故、大きな問題となったのか?おわかりでしょうか?
使用者は、一旦約束した金額は、たとえ積立利率が下がろうとも支払わなければならないのです。
しかも、税制適格年金の場合、多くの事業主の方が単なる積立制度の1つ考えていて、退職金規程にさほど注意がなかったとされています。
利率が下がり退職金積立に不足が生じる恐れが出たならば、その時何らかの対処をすべきであったのに、そのまま放置してしまい(実際には適格年金制度自体をよく理解されていなかった、とされています)結果的に多くの企業で積立金不足が発生してしまいました。
しかし、どんなに経済情勢が当初の予測と違っても、どんな不測の事態が起ころうとも、一旦約束した退職金の額は、約束した金額として残ってしまうのです。
つまり、安易に退職金規程を作成し、退職金の額を約束してしまうことは、非常に危険なことなのです。
退職金制度を導入すること自体は、決して悪いことではなりません。
会社発展のためにも積極的に導入すべきです。
しかし、導入の際には、無理の無い金額を設定するなど慎重に検討する必要があります。
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社会保険労務士 松本 容昌
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