労災保険の特別加入制度とは?

ご存知のように、労災保険は、労働者の業務中又は通勤途中の災害に対して必要な補償を行う制度で、補償の対象は労働者となります。

ですから、経営者は、労災保険の補償の対象とはならないのですが、中小企業の経営者等には、一部、労災保険を適用する制度があります。

特別加入と呼ばれる制度です。

本ブログでは、特別加入制度についてわかりやすく解説してあります。
 
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労災保険では、経営者は補償の対象ではありません


「労災保険」

一度は、耳にされたことがあるかと思います。

正式には、労働者災害補償保険と言います。

読んで字の如く、この制度は、労働者が災害による負傷又は疾病を被った場合の補償を目的にする保険制度です。

ただし、災害と言っても、業務中の災害に限ります

そのため、業務外の災害により負傷等を被った場合には、労災保険は、適用されません。
 
 
ところで、労災保険は、労働者を対象としています。

逆に言えば、労働者以外は、労災保険の対象にはなりません。

では、この労災保険上で、労働者以外とは誰のことを指すのでしょう?

法律用語で、「使用者」と呼びます。

一般的には、使用者=社長、事業主というイメージがありますが、法律上では、社長、事業主以外の人を「使用者」と位置付ける場合があります。

労働基準法では、「使用者」には社長、事業主以外にも「事業の経営担当者等」も含めています。

つまり、経営に携わる取締役等も「使用者」とみなされる場合があります。
 
 
ただし、取締役の場合、使用者か否かの判断は、難しい場合があり、代表権を持っている取締役であれば、その呼称が「会長」、「専務」等なんであれ、

使用者となりますが、代表権を持たない取締役の場合には、その実情で判断されます。

その判断基準について詳細を述べるのは、今回のテーマの趣旨ではありませんので、割愛させていただきます。

中小企業の事業主等は、特別加入により、一部労災保険の対象となります


話を本題に戻しますが、労災保険の対象は労働者であるため、使用者は、労災保険を使うことはできないのです。

しかし、日本の多くの中小企業の使用者の方は、労働者と同じ業務に従事しています。

以下、話をわかりやすくするために、事業主以外はすべて労働者という会社をイメージしていただき、使用者は、事業主のみ、という前提でお話しさせていただきます。
 
 
先にも書きましたように、事業主と言えども、その業務内容は労働者とほとんど変わらない、という会社は、日本には無数にあります。

たとえ事業主であっても、労働者と同程度に災害に遭う可能性があります。

となると、労災保険は、労働者のみを対象という前提に多少の不合理が出てきます。
 
 
しかし、労災保険を全ての中小企業の事業主にも適用させるのも問題があります。

何故なら、中小企業の事業主すべてが、労働者と同じ業務に従事しているわけではないので、すべての中小企業の事業主を対象とすると、労災保険、本来の趣旨から考えると、本末転倒となってしまいます。

そこで生まれた制度が、「特別加入」制度です。

特別加入は、中小企業の事業主等に限られます


労災保険の特別加入とは、事業主等の労災保険が適用されない事業主等の、一部労災保険の適用を認める制度です。

「特別加入」へ加入は、任意です。

つまり、加入を希望しない場合であっても、全く法律的に問題はありません。

このように、あくまで事業主等の任意加入にすることにより、労災保険本来の趣旨である、労働者保護に対して整合性を保とうとしています。
 
 
この「特別加入」の制度ですが、いくつか制約があります。

まず、特別加入できるの事業主等は、中小企業の事業主等に限られます。

ちなみに、特別加入は、大工さんやタクシー運転手等の一人親方と呼ばれる労働者や海外派遣者も加入できますが、ここでは中小企業の事業主等を対象としてお話ししていきます。

中小企業の範囲等詳細につきましてはこちらをご覧下さい。
 
 
さて、事業主の方がこの特別加入に加入すると、労働者と同じように、一部労災保険の適用を受けることができます。

つまり、特別加入していなければ、事業主の方が、業務中に負傷等した場合には、治療費を基本的には実費で支払う必要があります。

以前、私が少し関わりがあった会社で、取締役(完全に労働者ではない取締役)の方が、荷物を運んでいる最中に階段から落ちてしまい、腰の骨を骨折してしまったことがありました。

しかし、この取締役の方、特別加入に加入していなかったので、(と言うより特別加入自体の存在を知らなかったので)治療費が100万円以上かかってしまったのですが、全て自費で支払うこととなってしまいました。

特別加入により休業補償等も受けることが可能となります


人間いつ災害に見舞われるかわかりません。

どんなに自分自身が注意していても、例えば、自動車で追突されてしまうこともあります。

さらに、特別加入に加入すれば、通常の労働者と同じ、休業した場合の、休業補償や万一、死亡した場合の遺族補償等も受けれる場合もあります。
 
 
特別加入は、事業主の方にとって非常に良い制度です。

これまで特別加入の制度を知ら無かった方やあまり深く考えたことが無かった方は、一度しっかりと検討されると良いと思います。

と言っても、特別加入はどうすれば加入できるの?

と思われるかと思いますので、次にその加入手続きについてお話しします。
 
 
また、特別加入に加入していない事業主の方が、業務中に負傷等した場合には、治療費を基本的には実費で支払う必要がある、と書きましたが、「基本的」と書いたように例外もあります。

その点に付きましても、後述したいと思います。
 

特別加入は、労働保険事務組合を通じての加入となります


労災保険の特別加入の加入手続きについてですが、特別加入を伴わないで労災保険に加入する場合には、直接、国(労働基準監督署)に加入の手続きを行います。

しかし、特別加入を伴う場合については、直接国に加入の手続きをすることは出来ず、労働保険事務組合という組織を通じて加入の手続きを行う必要があります。
 
 
「労働保険事務組合」とは、中小企業のために労災保険と雇用保険の事務手続きを代行する組織です。

最も身近な労働保険事務組合は、商工会議所があります。

また、同業者で労働保険事務組合を設立している場合もあります。

労働保険事務組合につきましては、労働基準監督署等で案内してくれます。

また、私達社会保険労務士でもご案内できますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
 
 
ところで、労災保険は、直接国に加入しても、労働保険事務組合を通じて加入しても保険料自体は変わりません。

ただ、労働保険事務組合に支払う年会費等が必要となってきます。

労働保険料の分割支払いが可能となります


ところで、労働保険事務組合を通じて労災保険に加入すると、事業主等が特別加入に加入できる他にもメリットがあります。

労災保険の保険料は、雇用保険の保険料と併せて納付します。

なお、労災保険と雇用保険を合わせて労働保険と呼びます。

従って、労災保険料と雇用保険料のことを労働保険料と言いますので、以下「労働保険」「労働保険料」の呼称を用います。

この労働保険料ですが、1年間の保険料を見込みで支払います。

これを概算保険料と呼びます。(1年経過して、過不足金が生じた場合の保険料を確定保険料と呼びます。)

この概算保険料ですが、国に直接加入する場合には、保険料の額が40万円以上でないと分割することが出来ないのです。

つまり、概算保険料が、39万円の場合は、一括で支払わなければなりません。
 
 
しかし、労働保険事務組合を通じて加入した場合には、概算保険料の額に関わらず最大で3分割することができます。

従って、1回の支払い金額を抑えることができるため、資金繰り的には楽になります。

しかも、利息等は発生しません。

さらに、労働保険の事務を委託するため、労働保険の事務手続きのために、事業主等の方が、ハローワーク等の行政官庁に出向く必要が無くなるため、事務負担軽減にもなります。

このように、労災保険の特別加入をすることによって、事業主等が労災保険の給付を受けられるだけでなく他のメリットもあります。
 
 
ところで、労災保険は、通常労働者に支払う、賃金を基に保険料が決まります。

となると、特別加入の保険料も事業主等に支払われる報酬で決められるので、保険料が高額になってしまう!

と思われるかと思います。

しかし、特別加入の保険料は、少し変則的な方法で決められます。
 
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労災保険の保険料は、通常労働者に支払った賃金を基に決定されます。

しかし、特別加入の場合には、賃金を特別加入者自身が決めることが出来ます。

具体的には、1日の賃金日額を、3,500円、4,000円、5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、9,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円の中から選ぶことができます。

この場合、実際にもらっている給料の額と全く関係なく選択することができます。
 
 
ところで、労災保険では、休業補償等を受ける場合、賃金を基に額が決められます。

ですから、特別加入の日額が多いほど、休業補償等の支給額が多くなります。

しかし、その代り支払う保険料も当然多くなります。

補償の適用は、労働者同様の業務に従事していた場合に限られます


ここで、賃金日額を選ぶポイントを2つお話しします。

労災保険を使って、病院等で治療を受ける場合には、労災保険が治療費の全額を支払ってくれます。

つまり、被災者は、負担金無しで治療を受けることができます。

これは特別加入も同じです。

しかも、賃金日額を3,500円を選択しても、20,000円を選択しても、どちらの場合も、負担金無しで治療を受けることができます。
 
 
また、事業主等の特別加入者が、労災保険の適用を受けることができるのは、労働者と同様の業務に従事している場合に限られます。

元々、労災保険は、あくまで労働者保護が前提にあるので、特別加入に加入していても、加入者である事業主等が、使用者としての業務に従事中に起こった災害による負傷等については、労災保険は、適用されません。

例えば、事業主等が、同業者の経営者会議に出席するための移動中に負傷した場合が、これに当たります。
 
 
また、事業主等が深夜等に業務に従事している場合で、最後の従業員が帰宅後、相当な時間が経過した後に負傷した場合にも、労災保険は、適用されません。

負傷した時に、通常の業務に従事していたのだから、労災保険が適用されるように思われますが、特別加入は、「労働者の業務に附随して」という考え方があるので、最後の従業員が帰宅して相当な時間が経過している場合には、あくまで使用者の立場として、業務を行っていたとみなされます。

ただ、「相当な時間」は、一律に決められていないので、ここでは何時間と言えないのですが、ここでは、このような場合にも特別加入しても、労災保険が適用されない場合もある、ということをご理解下さい。
 
 
最後に、これは私自身の考えですが、特別加入者の賃金日額を決める場合に、賃金日額の大小にかかわらず、自己負担無しで治療を受けることができ、必ずしもすべての負傷等に対してリスクカバーされない、という2つのポイントを考慮すると、18,000円や20,000円の高額な賃金日額を選ぶよりも、賃金日額は、程程の金額を選び保険料を押さえ、その代りに保険会社の傷害保険等にも加入するのが良いのではないかと思っています。

特別加入される場合にご参考になさって下さい(あくまで個人的な見解ですので、その点はご了承を。)
 
 
今回は、事業主等が労災保険の一部適用を受けることができる、特別加入についてお話ししました。

繰返しになりますが、中小企業の場合、経営者であっても、労働者と同様の業務に従事している場合が多いと言えます。

ですから、労働者の同じくらい業務災害に遭遇する可能性があると言えます。

そのためリスク対策として、特別加入は有効な手段の1つと言えますので、加入の検討をされるのも良いかと思います。
 
 
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社会保険労務士 松本 容昌
 
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