現在は、インターネットや書店等で簡単に就業規則の雛型、モデル就業規則を入手することができます。
経営者の方が、モデル就業規則等を利用して就業規則を作成すること自体は、必ずしも悪いことではないのですが、ただ、モデル就業規則を利用して、就業規則を作成する場合には、いくつか注意する必要があります。
本ブログでは、モデル就業規則を使用する場合の絶対に知っておきたいポイントについてお話ししたいと思います。
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モデル就業規則は、全くの無駄なのか・・・?
さて、本題に入る前にモデル就業規則自体について少し考えてみたいと思います。
就業規則に関するホームページを見ると、「モデル就業規則は危険」とか「モデル就業規則では不十分」といった言葉が目に付きます。
私も、ある意味正しいと思います。
では、モデル就業規則は、全くの無駄なものなのでしょうか?
そもそも、何故、厚生労働省をはじめとして、多くの団体等がモデル就業規則を作成し、冊子で配布したり、インターネット上で公開しているのでしょうか?
ご存知のように労働トラブルを防止し適正な労務管理を行うには、就業規則は不可欠です。
ところで、就業規則を社会保険労務士の等の専門家に依頼すれば、それなりに費用が発生します。
となれば、経営者の中には、作成依頼を躊躇ってしまう方もいるでしょう。
しかし、経営者の方が、全くの白紙の状態から就業規則を作成するのも非常に困難と言えます。
となれば、経営者の方が、モデル就業規則を参考にして、就業規則を作成することに大きな意義があると言えます。
大切なことは、モデル就業規則を参考にする際には、何処に注意すべきなのか?
モデル就業規則に書かれている事項であっても、自分の会社には不必要なものないか?
反対に、モデル就業規則に書かれていない事項でもあっても、必要なものはないか?
といったことを考えながら作成することです。
では、モデル就業規則を使って、就業規則を作成する際の注意点等について、具体的にお話ししていきたいと思います。
業種によって潜むリスクの種類が違います
就業規則を作成する場合、「モデル就業規則を使うことは危険です」という言葉をよく聞きます。
では、何故、モデル就業規則を使うことが危険なのでしょうか・・・?
それにはいくつかの理由がありますが、ここでは2つの理由についてご説明したいと思います。
まず、就業規則を作成する大きな目的の1つに、「会社をリスクから守る」というものがあります。
ここで考えなければならないのが、リスクについてです。
企業が抱えるリスクというものは、業種によって異なってきます。
例えば、運送業と美容院では、当然ですが、抱えるリスクが異なってきます。
さらに、同じ業種でも、会社規模、従業員の雇用形態や立地等によっても潜在するリスクというものは違ってきます。
ですから、企業が抱えるリスクというものは、各企業ごとによって異なるわけです。
先程、書きましたが、就業規則を作成する大きな目的の1つに、リスク対策があります。
となれば、就業規則を作成するなら、当然、各企業が、それぞれ抱えているリスクに対応していく必要があります。
しかし、モデル就業規則は、業種を特定して作成されているわけではないので、内容が一般的なものとなってしまいます。
もちろん、モデル就業規則であっても、社会保険労務士等の専門家が作成していますので、一般的なリスク対策としては、十分なのですが、個々のリスクにはどうしても対応できない場合も出てきます。
例えば、運送業で言えば、当然、車両に関するリスク対策が必要となってきます。
しかし、モデル就業規則では、運送業に潜在する細かなリスクにまでは対応した内容とはなっていないのが通常です。
ですから、実際にトラブルが起こった場合に、就業規則が全く役に立たずに、その結果、何百万円以上の損害額が発生してしまう場合もあるのです。
このように、モデル就業規則をそのまま使用してしまうと、リスク対策として不十分となってしまう場合があるのです。
モデル就業規則は、あくまで参考に
そして、ここでもう1つ注意しなければならない点は、多くの場合、事業主の方が、モデル就業規則を使って自社の就業規則を作成した場合、リスク対策として不十分である場合があることを認識していないのです。
先にも書きましたが、モデル就業規則と言えども、社会保険労務士等の専門家が作成したものです。
特に書籍で販売されている場合には、当然、それを購入するのに費用を支払います。
もし、専門家が書いた書籍を購入した場合、その書籍に対してどのような感情を持つでしょうか?
当然、そのモデル就業規則に関する書籍を購入した事業主の方は、その書籍に対して「権威」を感じるでしょう。
ですから、「権威」を感じている書籍が、リスク対策に対して、不十分であるとはなかなか思わないのが実情です。
そして、結果として自社特有のリスクが潜んでいるかもしれない、といった意識すら持たなくなってしまう可能性があります。
ですから、モデル就業規則を使用する場合には、あくまで「参考に留める」という意識をもって、自社における個々のリスクの存在に関しても十分な検討を行うことが重要となってきます。
さらに、モデル就業規則を使用することのもう1つの危険性について別の視点からお話ししたいと思います。
賞与や退職金は、経営者の義務ではありません
これまでお話ししましたように、モデル就業規則は、業種や会社を規模を特定して作成されているわけではないので、会社の個々のリスクに対応できない場合があり、リスク対策としては不十分となってしまう場合がある、という危険性についてお話ししました。
ここでは、モデル就業規則の危険性について別の視点からお話ししたいと思います。
ところで、就業規則に関して、労働基準法では、「相対的記載事項」という法律を定めています。
相対的記載事項とは、会社に定めがある場合には、就業規則に記載しなければならない事項です。
最も、代表的なものは、賞与や退職金制度、休職制度、慶弔休暇などです。
これらのものは、会社内に「定めがある場合」には、就業規則に記載しなければならないのです。
ところで、この法律を逆に解釈すると、「定めが無い場合」には、就業規則に記載する必要はないのです。
つまり、賞与や退職金制度、休職制度、慶弔休暇などは、元々、事業主に与えられた義務ではないのです。
ですから、賞与や退職金を支払わなくても、また、休職制度や慶弔休暇制度がなくても、法律上は全く問題ないのです。
さらに、仮に、賞与や退職金を支払う場合でも、支給額や支払い方法、対象者等については、会社が自由に決めることができます。
また、休職制度や慶弔休暇についても日数や給料の支払いの有無についても任意に定めることができます。
不利益変更には従業員の同意が必要です
ただし、ここで注意が必要なのは、元々、事業主に法律的な義務の無い事項についても、一度、就業規則に定めてしまえば、従業員の既得権となり、制度の廃止や条件の低下を行う場合には、従業員の同意が必要となってきます。
モデル就業規則には、この相対的記載事項についても記載されているものが多々あります。
賞与や退職金については支給しなくても、法律的に問題が無い、ということを正しく理解している事業主の方は多いと言えますが、休職制度や慶弔休暇等について、法律的には、事業主に制度導入の義務が無いということは、多くの事業主の方は、知らないのが現状だと言えます。
ですから、モデル就業規則に、休職制度や慶弔休暇が記載されていれば、事業主の方が、「就業規則には、休職制度や慶弔休暇を記載しなければいけないんだな」と勘違いされてしまうケースが十分考えられます。
もちろん、休職制度や慶弔休暇制度の持つ意味を十分理解して、就業規則に記載するのなら良いのですが、意味もあまりわからず「モデル就業規則に書いてあったから記載しなければいけないと思った」では、会社に必要以上の負担が強いられてしまうこととなる場合もあるのです。
特にモデル就業規則の場合、このような相対的記載事項については、従業員に有利な内容で書かれている場合が多いので、注意が必要です。
先にも書きましたが、本来、事業主に義務の無い相対的記載事項でも「モデル就業規則に書いてあったから記載しなければいけないと思った」という、たとえ勘違いであっても、一度、就業規則に記載してしまうと、従業員の権利となり、会社が、一方的に廃止や条件の低下は出来なくなってしまいます。
ですから、モデル就業規則を使用して、就業規則を作成する場合には、会社として、どこまで従業員のために休職制度や慶弔休暇といった福利厚生面を充実できるのか、そのあたりをよく検討して就業規則を作成する必要があります。
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社会保険労務士 松本 容昌
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