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【質問】
「先日、当社従業員が、通勤中に交通事故を起こしてしまいました。当従業員方が、過失が大きい事故のようですが、従業員本人も負傷してしまいました。交通事故ですが、相手方からは、労災保険で対応して欲しい、と言われました。確かに、通勤中の事故ですので、通勤災害に該当するかと思いますが、交通事故でも、労災保険を使うことができるのですか?」
【回答】
「交通事故であっても、労災保険を使うことはできます。ただし、自賠責保険との関係を考える必要があります。」
【解説】
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通勤は、業務と深く関連があるため、従業員が、通勤中の災害で、負傷等した場合、いわゆる通勤災害についても、労災保険の補償対象としています。
ですから、通勤災害がたとえ、交通事故であっても、合理的な経路と方法による通勤中の事故であれば、当然に、労災保険から補償を受けることができます。
ところで、通勤災害が交通事故の場合、考えなければならないのは、自賠責保険との関係です。
車両同時の事故の場合、相手方の自賠責保険から補償を受けることが可能です。
ですから、通勤災害が、交通事故の場合、労災保険と自賠責保険と2つの制度から補償を受けることが可能となります。
ここで疑問が出てくるのですが、では、労災保険と自賠責保険、どちらを先に使うべきなのでしょうか?
一般的には、自賠責保険を優先するとされています。
実際、病院でも、通勤災害が、交通事故の場合、自賠責保険から、と言われれることが多々あります。
確かに、労災保険より自賠責保険を優先させる方が、被災者にとっては、有利となる場合の方が多いと言えます。
しかし、「自賠責保険を優先させる」という理論には、法的根拠がなく労災保険と自賠責保険のどちらを使かは、実は、被災者が選択することができるのです。
ですから、労災保険と自賠責保険のどちらを選択するは、被災者が、本来は、自分にとって有利になる方を選択すれば良いのです。
しかし、通勤災害が交通事故の場合に非常に難しいのが、事故当事者双方の感情や過失割合、保険会社の立場、当事者の労災保険や自賠責保険等に関する知識不足等の理由で、被災者が、意思通りにならない場合が多いのです。
本来は、自賠責保険を優先させた方が、絶対に被災者にとって有利な場合でも、労災保険が先行してしまうケースもあります。
実際、通勤災害が交通事故の場合、様々な要因で、事態が非常に複雑化してしまいますので、必ずしも原理原則に沿うことができない場合も多いので、柔軟に対応する必要がありますが、通勤災害が交通事故の場合、労災保険と自賠責保険のどちらを優先させるかは、被災者が選択することができ、ということは覚えておかれると良いかと思います。
さて、ご質問では、被災従業員の方が過失が多く、相手方から、労災保険で対応して欲しい、言われているようです。
通勤災害が交通事故の場合、総務担当者等が困惑するのが、まさにこのようなケースと言えるかと思います。
ところで、通勤災害が交通事故の場合、何故、話しがややこしくなってくるかと言いますと、自賠責保険について、正しく理解されていないからだと言えます。
自賠責保険は、通常の認識とは少し変わった考え方をします。
多くの方が、そこを理解できないために、実際に事故が起きてしまうと非常にわかりにくいものとなってしまいます。
ここでは、ご質問にありますように、交通事故の相手方から、労災保険を使って欲しい、と言われたケースを少し掘り下げて考えてみたいと思います。
通勤災害が交通事故の場合、労災保険か自賠責保険か、どちらを先行して使うかは、先程言いましたように、本来は被災者の自由となります。
しかし、様々な事情によって、原則通りに行かない場合もあります。
その理由で最も大きいのが、自賠責保険制度自体の特殊性にあると言えます。
その中で、最もわかり難いのが、「被害者」の考え方かと言えます。
通常、交通事故で被害者と言えば、過失割合の少ない方を言います。
今回のご質問のケースで言えば、従業員の方の過失が多いようなので、従業員の方が、加害者で相手方が被害者となります。
しかし、自賠責保険では、過失割合によって「被害者」「加害者」と判断するのではないのです。
自賠責保険では、過失割合に関係なく、単純に怪我をした方を「被害者」と呼びます。
少しわかり難いかと思いますが、ご質問ケースで言えば、従業員の方の過失割合が大きくても、従業員の方自身が、負傷しているので、従業員の方は、自賠責保険上では「被害者」となります。
つまり、過失割合が少ない相手方であっても、「加害者」となります。
ところで、もし、仮に相手方も負傷していた場合にはどうなるでしょうか?
先程、言いましたように、自賠責保険では、単純に怪我をした方が、「被害者」となりますので、相手方もその意味では「被害者」となります。
つまり、交通事故の場合、双方が怪我をすれば、自賠責保険上では、「被害者」「加害者」の両方になるのです。
何故、このような考え方をするかと言いますと、自賠責保険は、元々、被害者を保護する制度だからです。
ご存知のように、自賠責保険は、強制加入ですので、建前上は、全ての車が加入していることとなります。
となれば、どのような事故であっても、被災者は、一定の補償を受けることができることとなります。
ここで、1つ基本的な事項をご理解していただく必要があります。
自賠責保険とというのは、あくまで事故の時に相手方を救済するために加入する制度です。
ですから、事故の過失割合に関係なく、単純に怪我を負った方は、相手方の自賠責保険から補償を受けることとなります。
自賠責保険で、自分自身を補償することはできないのです。
例えば、交差点で停止中の車に追突すれば、当然、過失割合は、追突した方が、過失の割合が100%となり、停止中の車両には、過失はありません。
しかし、このような事故であっても、過失割合が100%である追突した方が怪我をすれば、停止中の車両の自賠責保険により補償を受けることとなるのです。
つまり、追突して負傷した運転手側から見れば、追突した運転手が、「被害者」で、停止中の車両の運転手が「加害者」となるわけです。
自賠責保険とは、このような制度なのです。
ただし、理屈上では、被害者保護を目的としていても、先の例のような、過失割合が少ない実際の被害者からすれば、感情的に受け入れがたものがあります。
そして、ここでもう1つポイントなってくるのが、実際に事故が起きた場合に、自賠責保険の手続きを誰が行うかです。
これは、自賠責保険の請求は、運転手個人でもできますが、なかなか、素人では難しいのが現状です。
ここで重要となってくるのが、保険会社です。
任意の自動車保険に加入している場合には、保険会社が自賠責保険の請求を行ってくれる場合があります。
しかし、ここも非常にわかりにくいシステムとなっているのです。
先の例でご説明しますと、停止中の車両に追突して、停止中の運転手及び追突した方の運転手双方が怪我をしたとします。
先程、ご説明しましたように、双方が怪我をしていますから、自賠責保険上では、双方が「被害者」「加害者」となります。
つまり、停止中の運転手の怪我は、追突した車両の自賠責保険から、追突した運転手の怪我は、停止中の車両の自賠責保険から補償を受けることとなります。
そして、自賠責保険の手続きについてですが、過失割合の多い方が、任意の自動車保険に加入していれば、相手方、つまり過失割合の少ない方の自賠責保険の請求は、代行してくれます。
しかし、過失割合が少ない方が加入している保険会社が、過失割合が多い方の自賠責保険の手続きを代行することはないのです。
ここは、非常にわかりにくいところですが、通勤災害が交通事故の場合、この自賠責保険の手続きが、非常に重要な意味を持ちます。
次に、実際に事故が起きた場合の、自賠責保険の請求について、具体的にお話したいと思います。
仮に、停止中の車両の運転手をAとし、Aが、自動車保険に加入している保険会社をM社とします。
そして、追突した車両の運転手をBとし、Bが、自動車保険に加入している保険会社をS社とします。
先にご説明しましたように、A、B双方が怪我をしているわけですから、Aの怪我については、自賠責保険上は、Aが被害者で、Bが加害者となります。
しかし、Bも怪我を負っているわけですから、たとえ、過失割合が100%であっても、Bの怪我については、自賠責保険上は、Bが被害者で、Aが加害者となるわけです。
つまり、Aは、Bの自賠責保険から補償を受け、Bは、Aの自賠責保険から補償を受けることとなります。
そして、実際の手続きについてですが、過失割合が少ないAが、Bの自賠責保険に対する補償手続きは、過失割割合が多いBが、加入しているS社が行ってくれます。
これは、実際にBの方が、過失割合が多いのため、Bが一般的に言う「加害者」に当たるため、加害者側の保険会社が、一般的に言う「被害者」に当たるAのために、手続きを行うこととなります。
では、BのAに対しての自賠責保険のへの請求手続きを、Aが自動車保険に加入している、M社は行うのでしょうか?
過失割合から考えた場合、Bは、加害者に当たるため、被害者であるAの保険会社であるM社が、加害者であるBのために自賠責保険の請求手続きを行ってあげるということはしないのです。
ただ、これまでもお話ししてきましたように、自賠責保険は、被害者(単に怪我を負ったという意味の被害者です)保護が目的であるため、Bは、Aの自賠責保険から補償を受ける権利はあります。
では、Bが自動車保険に加入しているS社は、Bのために自賠責保険の請求手続きを行うのでしょうか?
実は、保険会社は、自社の自動車保険に加入している契約者のために自賠責保険の請求を代行することはないのです。
保険会社は、自社の契約者が事故を起こし、相手方の過失が少ない場合に、相手方のために自賠責保険の請求の代行を行うのみなんです。
ですから、過失割合が多いBについては、相手方の保険会社M社もB自身が、加入しているS社も、Bのために自賠責保険の請求代行行うことはないのです。
結局、Bが、Aの自賠責保険から請求を受けたい場合には、B自身でAの自賠責保険へ請求を行わなければならないのです。
となると、現実問題として、Bが、Aの自賠責保険へ請求することは非常に困難となります。
B自身が、自賠責保険の請求業務に関して素人であることに加え、先に書きましたように、一般的な意味での「被害者」である、Aの感情的な問題があります。
法律上は、BはAの自賠責保険から補償を受ける権利があると言っても、Aからしてみれば、「何故、自分の保険を加害者のために使わなければならないのか?」という許容できない感情を抱いてしまいます。
もちろん、本来は、Aがそのような感情を持つこと自体が、法律的に考えれば、間違っていることかもしれないのですが、それをAに説明する人がいないのです。
先に書いたように、Bのために相手方の保険会社はもちろん、B自身が加入している保険会社もBのために自賠責保険の請求に関して動いてくれることはありません。
となると、Aを説得するのは、B自身が行うこととなってしまいます。
もちろん、Bの代理店が、サービスで行う場合も考えられますが、Aからみて加害者側であるB又はその代理店が、いくら説明しても、Aが、納得することは、まず考えにくいと言えます。
さらに、ここで話しがこじれれば、後の示談交渉に影響が出ることも考えられます。
となると、Bは、Aの自賠責保険から補償を受ける権利があると言っても、現実的には、非常に困難と言えます。
となれば、労災保険を先行して補償を受けざる得なくなります。
先に書いたように、通勤災害が、交通事故であっても、労災保険を使うか、自賠責保険を使うかは被災者の自由です。
しかし、現実には、被災者の自由にならないこともあります。
ですから、通勤災害が交通事故の場合、負傷した従業員が、どのような状況に置かれているかで、労災保険を使うべきか、自賠責保険を使うかを冷静に判断する必要があるのです。
せっかくですから、さらに、もう1つ事例を上げて、労災保険と自賠責保険との関係をより深めていきたいと思います。
これまで、お話ししましたように、通勤災害が交通事故の場合、労災保険と自賠責保険のどちらを優先させるか、被災者が選択することができます。
しかし、一般的には自賠責保険を優先させることとされています。
実際、自賠責保険を優先させた方が、被災者にとっては、有利となる面が多いと言えます。
ところで、これまで、詳しくお話しましたように、自賠責保険は、過失割合に関係なく負傷した方が、相手方の自賠責保険より補償を受けることとなります。
つまり、自賠責保険は、相手方を補償する保険で、自分で加入している自賠責保険で自身を補償することはありえないのです。
そして、自賠責保険の請求の手続きについてですが、これは、過失が少ない方の請求業務は、過失が多い側が、任意の自動車保険に加入していれば、その保険会社が行ってくれます。
ですから、ご質問のケースの場合、従業員の方の方が過失割合が少ないようですので、追突した相手方が、任意の自動車保険に加入していれば、その保険会社が、自賠責保険の請求業務を行ってくれます。
しかし、現実には、相手方が、任意の自動車保険に加入していないケースも考えられます。
では、このような場合、誰が自賠責保険の請求を行うか?ということとなります。
従業員の方が、任意の自動車保険に加入していた場合に、その保険会社は自賠責保険の請求を行ってくれるのでしょうか?
実は、保険会社が、自賠責保険の請求を行うのは、相手方の過失が少ない場合で、相手方のために行う時だけです。
つまり、自社の契約者のために自賠責保険の請求を行うことなないのです。(ちなみに、ご質問にあるように、自社の契約者の過失がゼロの場合には、示談交渉も代行してくれません。)
となると、今回のケースで言えば、負傷した従業員の方が、追突した相手方から自賠責保険の請求をしなければなりません。
しかし、現実的には、これは無理な話しとなってきます。
となると、このような場合には、労災保険を先行せざる得ないと言えます。
実は、これは非常に理不尽な事と言えます。
ご質問のようなケースの場合、従業員の方に過失が無ければ、補償の義務を負うのは相手方です。
しかし、労災保険を使う場合、その手続きを行うのは、負傷した従業員又はその会社となります。
「やられた方が、動かなければならない」
というのは、何か納得できないのですが、現実問題として、そうせざる得ないのです。
もし、相手方が任意の自動車保険に加入していて自賠責保険を優先させることができたら、相手方保険会社が手続きを全て行ってくれます。
このように通勤災害が、交通事故の場合には、で労災保険か自賠責保険のどちらを優先させるか、様々な要因でその都度、判断しなければならないこととなります。
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